時と時空の思い10
居なくなってはいないだろうか・・・。
急いで戻ると、殺生丸様はまだそこに立っていた。
髪がサラサラと揺れていて無性に触りたくなる。
「行くぞ」
えっ!
「ちょっと待って!」
スタスタと枝も何も気にせず、まるで何も無いように
進んで行く殺生丸様とは違い、私の足取りはよたよた
と心もとない。
はっきり言って、何であんなに平然と進めるのか不思
議でならない。
「・・・・」
「待って下さいってば!!」
ぶっ!
前あまり見ずに突っ走ったら前の背中に思いっきり激
突した。
鼻が今より低くなった気がする・・・。
それより!!!
急に止まったのは殺生丸様のせいだけど・・・怒って
たらどうしよう。
恐る恐る見上げれば、無表情のままの殺生丸様がじっ
とこっちを見ている。
「ここからは人の足では無理だ」
何の事だろう。
そっと殺生丸様の見ている先を覗き込むと・・・・・
ぇぇえええええええ!!
ちょっと待って崖?!下が霞んで見えないよ此れ。
「口を開くな」
「えっ・・・?」
ちょっと、えっ?
(キャーーーーーーーーーーー!!!!!)
何?抱っこ?抱っこコレ???
鼻血でそう・・・。
体がスッとすくい上げられたかと思うと、体がふわり
と浮くのを感じる。
でもそれも一瞬の事。
一気に風の波が体中を襲って来た。
ビュービューと耳の脇で音が鳴って、それ以外の音
はまったく聞こえない。
私は一生懸命に殺生丸様の服を握り締めた。
風の音がやみ、体に叩きつける様に吹いていた風が静
まると、そっと目を開ける。
どうやら無事地面へと着いた様だ。
「えっと・・・・・」
なのに今だに私は殺生丸様に抱え込まれている。
「・・・・・」
「重くないですか・・・・・」
「ここから暫く止まらずに行く」
無視・・・・。
それとも噛合って無いだけ?
「行くぞ」
「えっ?」
(Nooooooooooooooo!!!)
走る時の上下運動の振動は可笑しい位に無いのに。
この風。
風圧がもの凄い。
殺生丸様の肩に顔を押し付けて耐えるしかない。
「・・・・っ」
ちょっとかごめちゃんを尊敬してしまう。慣れれば平
気になるんだろうか此れ。
少し目を開けて流れていく景色へと目をやる。
・・・・。
うわぁ新幹線だ〜〜〜〜。
私は早々に見るのをやめる。
酔う。此れずっと見ていたら酔うよ。
目も乾いてカピカピして痛くたってしまうと思う。
ちょっとだけだったのに目がひりひりしている。
それからどれくらい経ったのか。
不覚にも私は寝てしまっていた様だ。
妙な圧迫感も無くなり、風も無い。
どうやら着いた様だ。
あたりには霧が立ち込めていて、何処か家に着いたと
言う訳ではなさそうだけど。
「」
名前が呼ばれ、顔を上げるとそっと地面に下ろされる。
初めて名前を呼ばれたて今の私の顔は真っ赤だ。
「えっと、着いたんですか?」
「取り敢えずは」
「・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
お互い無言でお互いを見ていると(とても見詰め合う
なんて色気の有る物では無い。)遠くから何か呼ぶ
声が聞こえてきた。
「 様〜〜〜」
「殺生丸様〜〜〜〜〜」
その声がはっきり聞こえてくると、殺生丸様はふいっ
と私から目を逸らしてそっちの方へと歩き出してしまう。
「何処に行くんですか?」
この霧だはぐれたら大変だ。
私は急ぎ足で殺生丸様の後へ着いて行った。
